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レビュー・劇評

レビュー / お芝居デリバリー「まりまり」

柚木康裕(cocommons)
2024年10月10日

お芝居デリバリー「まりまり」の静岡公演が9月23(月祝)、24(火)に行われました。コロナ禍で上演から遠ざかってしまっていたとのことで、昨年の活動再開の岩手公演を経て、静岡では5年ぶりの舞台だったようです。それでも息の合った芝居は、休止のブランクを感じさせることはありませんでした。

「まりまり」は俳優が集まり童話や昔話をお芝居として上演する演劇チームです。今回出演されたメンバーのムッシュ、たま、ともちゃんの三人は、20年ほど前にそれぞれ演劇活動を行う中で知り合いました。現在は静岡、千葉、福岡と違う土地に暮らしながらも、タイミングを合わせては「まりまり」を続けています。物理的な距離があるために集まるのはきっと簡単なことではないはず。それでも無理せずにそれぞれの生活を大切にしてきたからこそ続けられたのでしょう。そこから育まれた三人の関係性が舞台から味わいとして溢れているようでした。

「まりまり」はこれまで保育園や学校、病院などに出かけて公演を行なってきました。普段はあまり芝居を見ることが出来ない人たちに届けたいというモチベーションが活動を続けている理由なのは間違いないでしょう。それを感じさせるエピソードを幕間のトーク中にムッシュさんがお話されました。ともちゃんが岩手県出身ということもあり、東日本大震災後に子どもたちを元気付けるために毎年岩手県の小学校に応援公演に出かけていたようです。5年を区切りに終えようと5年目の小学校公演の終演後にそのことを子どもたちに伝えたら、泣いて寂しがったようです。それを見た三人はその場で発言を撤回し来年からもまた来るとその場で約束しました。そしてその後5年間継続したそうです。

まさにお芝居デリバリーと呼ぶにふさわしいエピソードです。子どもたちが「まりまり」を心待ちにしていることは、三人にとってどれほど嬉しいことだったでしょうか。もちろん、その期待に応えようとさまざまに工夫を重ねたに違いありません。そうして「まりまり」スタイルは磨かれていったのではないでしょうか。今回の公演でも観客とのコミュニケーションが活発な印象でしたが、そうした成果の表れのように感じました。

冒頭で説明したとおりにお芝居デリバリー「まりまり」は、童話や昔話をお芝居として上演します。演劇というと少し難しそうですが、「まりまり」の舞台はまさに”お芝居”と呼ぶのに相応しい感じがします。ドタバタした雰囲気がそう感じさせるのですが、しかし、キャリアを積んだ三人の俳優はしっかりと物語を読み込み、本質の理解に努め、全年齢対象に楽しめることを目指していることが分かります。ここには芝居/演劇への愛と俳優の矜持が背後にあることがじんわりと伝わってきます。

本公演は約1時間で5作品を上演しました。『桃太郎』『くつやのこびと』『泣いた赤鬼』『花さかじいさん』『にんじん大根ゴボウ』といったラインナップでどれも馴染みのあるお話です。物語を読み聞かせすれば相応の時間を要するはずですが、「まりまり」はそれをギューと濃縮させて1本10分以内の芝居に仕立てます。それでもしっかり物語として成立しているのは、先ほどもお伝えした通りに三人のキャリアのたまものです。そして「演劇」の特徴もそこから見てとることが可能でしょう。つまり物語は身体を通すことによって、伝えられる情報量が圧倒的に増えるということです。ゆえに時間を縮めることもできるはずなのです。

例えば、『桃太郎』のワンシーン。鬼の登場では、両腕の肘をそれぞれ上と下に曲げたポーズひとつで鬼の怖さまで伝わってきました。そこでは言葉は必要ありません。改めて、演じるということの不思議さや愉快さも感じられて、おもわず顔がほころびます。『泣いた赤鬼』でも赤鬼と青鬼が登場しますが、また同じポーズで鬼を表現します。2回目の登場によって、鬼はさらに鬼らしくなり、物語により深く入り込んでしまったように感じました。怖さの表現を優先し演じていた赤鬼でしたが、ふいに青鬼の優しさに触れて、自分のとった行為に後悔の念を抱く姿とのギャップによって、いつも以上に感情が揺さぶられてしまいました。「まりまり」は、演じることの効果をよく理解したうえで演出をされているので、物語を短縮しても不足なくその内容がしっかり届いてくるのだと思います。

そんな素晴らしい芝居を届けてくれる「まりまり」ですが、自分たちの芝居を説明するのが難しいと少し悩みがあるそうです。言葉にすると平凡するぎて、魅力が感じられないとのこと。「昔話をぎゅーと縮めて、お芝居にしています!」。。確かにそれは間違ってはいないけど、大切なことは何も伝わっていないことも確かかもしれません。では、何が足りないか。もっとも演劇/芝居は、そのクオリティが上がれば上がるほど言葉で伝えるのが困難ともいえます。実は、「まりまり」がそれを雄弁に物語ってしまっているのです。つまり身体によって圧倒的な情報量を伝えられているので、それはどんな言葉でも伝えきることはできないと言えるからです。それでも言葉で伝えるとしたら。。このレビューは著者なりのその試みでもあります。

「まりまり」の芝居は、基本的に舞台美術がなく、サウンドシステムもありません。いわゆる素舞台です。舞台の上にあるには俳優の身体のみ。つまり派手な演出はできないということです。では、そこに演劇のスペクタクル/醍醐味は無いのかといえば、けっしてそんなことはありません。経験を積んだ三人の身体は実に雄弁で、大いに想像力を刺激して脳内に豊かな物語風景を立ち上げます。きっと想像力逞しい子どもたちほど、「まりまり」の舞台に釘付けになるのでしょう。岩手の小学生たちのように。

この想像力を刺激する方法は、ある条件が満たされないと十分に効果を発揮しないはず。その条件とは”信頼”です。俳優と観客の信頼はもちろん、俳優と場(会場)、俳優と主催者などのさまざまな関係性が信頼に支えられていることが重要です。それにより想像力が全開になるのではないでしょうか。ゆえに「まりまり」はコミュニケーションを大切にするのです。演目と演目の間に観客のみなさんとたくさんの言葉を交わすのはそのためでしょう。それはすでに芝居の一部だといってもよいはずです。

音楽ライブでは観客と一体化するためにコールアンドレスポンスという掛け合いをしばしば行います。それは演者観客という関係を溶かし、舞台を一緒に作り上げるチームをつくりあげますが、「まりまり」のコミュニケーションも同じ効果を生みだします。ただ、「まりまり」の場合は舞台が始まる前からすでに/つねに観客も一緒に芝居をつくるメンバーとして巻き込んでいるのが面白いところ。そして、お互いの信頼から生まれる関係性を積みあげて、一人ひとりに豊かな物語風景を立ち上がらせるのです。

[ 観劇データ ]
お芝居デリバリー「まりまり」静岡公演
会場:しずおかのひみつ
日時:2024年9月24日(火) 18:00
出演:ムッシュ、たま、ともちゃん(以上まりまり)
上演作品:『桃太郎』『くつやのこびと』『泣いた赤鬼』『花さかじいさん』『にんじん大根ゴボウ』

今回の公演フライヤー

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