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レビュー・劇評

演劇ユニット ひ・ま・た・く『他がために、鐘は鳴る?』

美音子
2023年2月20日

演劇ユニット ひ・ま・た・く 四年ぶりとなる今回の公演は、秋之桜子作『他がために、鐘は鳴る?』。約三年の準備期間を経た本作は、二人芝居の真髄に迫る大作であった。

急死した姉・幹の葬儀から帰ってきた駆け出し脚本家の花。きょうが大事な締切であることに気づき、慌ててパソコンを開くが、なかなかよいストーリーが思い浮かばない。お尻たたきのための目覚まし時計をセットしていると、姉が大好きだった絵本を見つける。そこに挟まれていた、幼いころに姉妹で作った歌を口ずさんだ途端、クローゼットから死んだはずの姉・幹が現れて……というファンタジー調の本作は、大筋はコメディだが、時に観客の心を大きく揺さぶる「家族との確執や愛憎」をテーマとしている。

平岡ねいこ演じる幹は、段々と花への過保護の奥に眠る嫉妬や羨望を露わにしていく一方、それに振り回されるかのように見える青衣咲空演じる花には、姉の言いなりになっていた自分自信の「本当にやりたいこと」を信じてみたいという思いが溢れだす。分かり合っているようで分かり合えなていなかった二人の歩み寄りが引き金となってあっという間にラストシーンが訪れる、切なくも希望にあふれたテンポの良い作品である。

そして今回の上演の素晴らしさは、この狂騒が非常にリアリティをもって「語られている」という点にある。一見、突飛で非現実的なストーリーだが、「もしかしたら世界のどこかで起こっているかもしれない」と思わせる説得力に満ちていた。特に、幹が花に書くことをあきらめるよう迫り、しかし花が「私にはこれしかないの」と拒絶するシーンには、普段ならたとえ家族であっても言わないであろう心の奥底の言葉が散りばめられており、それを語る俳優の、訓練と稽古の成果を強く感じとることができる。それぞれの物語を、平岡ねいこと青衣咲空という俳優が物語ることにより、幹と花という姉妹が現実、私たちと同じ世界で生きていると感じられた。姉妹のカタルシスに観客が「共振」し、共に泣き、笑い、見守ることができた。互いとのやり取りの中に観客の心を巻き込む二人芝居の、非常に素晴らしい実践を観たといえよう。

[ 観劇データ ]
演劇ユニット ひ・ま・た・く『他がために、鐘は鳴る?』
作:秋之桜子
演出:久保庭尚子
出演:平岡ねいこ、青衣咲空
観劇日:2023年2月5日(日) 15:00
会場:静岡葵生涯学習センター(アイセル21)1階ホール

[ レビュワー プロフィール ]

美音子(みねこ)
1993年生。静岡文化芸術大学芸術文化学科卒。静岡市在住。在野のキュレーター/文筆家。学生時代に現代美術と演劇に傾倒し、「書く」ことのよろこびを知る。身体や音楽、その他どんな表象にも代えられない「ことば」そのものをみつめるために試行錯誤中。時にガムラン奏者。

[ フライヤー ]
 

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