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ストレンジシード静岡2023 観劇記 – 永井健二編 vol.1

天候にも恵まれ盛況のうちに幕を閉じた「ストレンジシード静岡2023」を振り返る企画の第1弾。書き手の永井健二さんはSPAC俳優であり、同時開催していた「ふじのくに⇄せかい演劇祭」関連の演目SPAC『天守物語』(演出:宮城聰)に出演されていました。その合間に観劇されたストレンジシード静岡のいくつかの演目の覚え書きを紹介します。経験を積んだ俳優ならではのユニークな視点をお楽しみください。 ※ Vol.1、2に分けて掲載します。

ストレンジシード静岡2023 観劇記 vol.1

永井健二 2023年5月5日

★ウォーリー木下演出『χορός/コロス』 @駿府城公園 東御門前広場

「大量のベッド」「白日夢」というコンセプトで、開演後しばらくは『アインシュタインの夢』と重なって見える。トータルとしては「人類史」的な印象。発語はあるが既存の言語ではなく、原住民族のよう。グッと集中して観るタイプの作品ではないが、見終わってなぜだか少し未練が残るような作品。勝手なイメージだが、「少年王者館」とか「維新派」あたりが好きな人には向いてそう。

真正面(と思われる位置)の奥に大木。その木の下に演奏者。真正面から観るのがベストなのだろうけど、舞台全体を俯瞰するには舞台との距離が近すぎて、真正面を外した、サイドの端あたりから、斜めな感じで作品の全景を捉えるほうが観やすいかも…というわけで、2回目の観劇時は、サイドの、椅子席のすぐ後ろでの立ち見で観劇。横からのほうが全体が一目瞭然で非常に観やすい。

「砂かぶり席」は風向き次第では「砂ぼこり席」。そして、日傘をさして立ち見で見る方は、あまり前のほうで立ち見をしないでいただきたい。

群舞シーンや皆が同じ事をしているような場面はいいが、各々が各々のイメージで色々やっている場面(乱闘シーン、現代シーン、友人と再会するようなシーン、などなど)で、観ているこちらが少し気恥ずかしさを覚えるのは、演者によって「徹する」ところまで到達できて無いように見えるからか?

またおそらく、出演者の「表情の豊かさ」が求められる演出なのだが、そこが個人的にはちょっとクドく感じる(説明的すぎるように感じる)し、その表情の作り方に個人差があって、観ていて気恥ずかしくなる人も…。まあ、演劇を見慣れないような一般観客には、あれくらいしないと分かりにくいのだろうけど。

出演者全員に目を凝らし「森を見て全体を捉えよう」とすると、かえって情報量が多すぎて自分では精査できず、小難しく感じる恐れあり。各々が各々のイメージで演じている場面においては、「作品コンセプトをしっかり体現できてそうな出演者(それが誰なのかは、自分の勘を信じるしかない)」を狙い打ちで目で追いつつ、目立つ出演者が何かしている(この場面のメインの人はこの人なのかな?的な)時はそちらも見る、といった「木を見て森を想像する」みたいな見方が自分には合っていそうだった。

1回目の観劇では物理的に見えてなかった物や人や場面が、2回目では見えたことで、見えた分だけ面白さも増した気がする。2回目の観劇時は、立てたベッドが何台も倒れるほど強風だったためか、出演者の身体も少し身構え気味で、「身体の伸びやかさ」みたいなものは、ちょっと失われてしまったようにも見えた。2回目の時、女性が倒れた場面で救急車のサイレンが微かに聞こえた(公園の外で鳴っているように思われた)が、あれが用意されたSEでなかったのだとしたら、ちょっとした奇跡が起きた瞬間だったかも。

結構長い間、客席後方で歩き回りながら、手動でシャボン玉マシンを稼働させるスタッフが健気。彼らこそが、ある意味で「真のコロス」。

★Creative Dandi『Woman with Flower』 @毎日江崎ビル

3パートのパフォーマンスを10分ずつ。最初2つは、男女、女性同士のペアパフォーマンスで、「フィギュアスケートのアイスダンスを壁でやっている」印象。あるいは、日本古来の「梯子乗り」という伝統芸能があるが「それのビル壁版」という印象も。

アクロバティックさよりも、優雅さとかダンス的な感覚で、BGMもアップテンポなものではないが、ラストは4人揃っての、回転や跳躍もふんだんに盛り込まれたパフォーマンス。

見た目のインパクトと「スゴそう」感は絶大なので、「つい足を止めて見てしまう」という「まちは劇場プロジェクトのコンセプト」的には、大正解な作品ではある。

真下から見上げるのも良いが、少し離れた横から見上げると、見ている観客たちの姿も含め、ストリートの劇場感が増してよいかも。ただ、いずれにせよ、ずっと見上げているのは首が痛いので、仰向けに寝転びながら見られる「寝椅子席」がほしいところ。

★エンニュイ『平面的な世界、断片的な部屋 ストレンジシードver.』 @駿府城公園 児童公園エリア

途中までしか観られなかったのだが、面白くなりそうな雰囲気は感じられた。日常的ひとコマが、繰り返される中で少しずつ変容して広がっていくような作品(観ることができた部分までの話だが)。

演者以外の世界と来園者との境界があまりに曖昧で、どの人がカンパニーの人で、どの人がたまたまそこに居合わせた無関係の人なのか、よく分からない感じも面白かった。ただ、どうせなら、観客席を区切って設けず、「自分の隣に座ってた人が、いきなり喋り出したりして演者であることが分かる」みたいに、観客さえもボーダーレスの中に放り込んだらいいのにな、とも思う。(段取り通りにいかないことが増えるため、出演者たちは余計に大変になるけれど)

Vol.2に続きます。 ストレンジシード静岡2023 観劇記 – 永井健二編 vol.2

[ 筆者プロフィール ] 永井 健二(ながい・けんじ) SPAC(静岡県舞台芸術センター)所属俳優。岡山県出身。中学から演劇を始める。大阪教育大学で中・高の家庭科教諭免許を取得するも教師の道には進まず、2000年よりSPAC所属。学校での演劇ワークショップ講師など、人材育成事業にも関わりが深い。海外公演や、他国との共同制作作品への出演経験も多い。SPACでの主な出演は、『夜叉ヶ池』『ふたりの女』『グリム童話~少女と悪魔と風車小屋~』『みつばち共和国』ほか多数。

見出し写真、エンニュイ 筆者撮影
コロス、Creative Dandi cocommons提供
プロフィール写真 ©️伊藤華織

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