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レビュー / チャリティダンスパフォーマンス 〜平和をおどる 〜

柚木康裕(cocommons)
2024年1月7日

日本バプテスト静岡キリスト教会で行われたコンテンポラリーダンス公演は、新年明けてから落ち着かない心を鎮める穏やかなひと時となった。静岡市出身でスウエーデン在住のダンサー、振付家の織田きりえと公私ともにパートナーであるルーヴェ・ヘルグレンによる2作品が披露された。

舞台が始まる前に、二人のリードによって私たち観客も輪になって身体を動かした。簡単なワークショップなようなこの試みは、観客の緊張をほぐすと共に、これから始まるダンスへのイメージを膨らますような時間だったと思う。ゆっくり呼吸をしながら、手足を動かす。水にたゆたうようにとアドバイスがある。自らが動くのではなく、動かされている感覚が大切だということ。30人ほどが思い思いに身体を揺らす。この10分ほどのワークですっかり身体もリラックスし、会場の一体感も高まったようだ。

場が落ち着くと最初の演目が始まった。タイトル「2:1」というデュオ作品。解説では、「2:1は遊び心のある子ンテンポラリーダンスパフォーマンスです。『どのように2つが1つに?2つが1つになることができる?』と踊りが問いかけます」と説明している。確かに二人の踊りは、戯れあっている動物のように引っ付いたり離れたりして自他の境界を揺らしているよう。考えてみれば動物は「言葉」以外のコミュニケーションによって、お互いの気持ちを通じ合わせている。もしかしたら、そこには1つとか2つとかという区別はないのかもしれない。すべてが個であり全体でもあるような。そんなことが心に浮かんできた。ユニゾンで魅せるパートはさすがに息の合ったところをみせながら、コミカルな動きで時に笑いを誘い構成の巧みさが感じられた。

2つ目の演目は織田のソロで「暁(あかつき)」。本来はデュオ作品だが今回はソロバージョン。実はこの作品は私の企画で以前踊って頂いたことがある思い出深い作品。その時はルーヴェとのデュオだった。この作品は第二次世界大戦中の出来事からインスピレーションを受けて創作された。それは今では日本のシンドラーとも呼ばれる杉原千畝(すぎはら・ちうね)が、リトアニアの日本領事館領事代理のときにユダヤ人にビザを発給し、亡命を手助けした事件のこと。非常に難しい題材だが、織田はその小さな身体にエネルギーを漲らせ全身で表現に挑んでいる。常に重心は低く、板張りの床に身体全身が幾度も触れる。会場の教会はこじんまりとしていて目の前で踊る織田の筋肉の震えが見える。しかし、その身体の奥まで視線を伸ばせば見えるものは「祈り」だ。それは現代(いま)に続く苦難の連鎖に対しても捧げられていることは想像に難くない。彼女のリアリティが教会の空間を満たし、私たちもまた思いを馳せる。

年の初めに素晴らしい公演を立ち会えた。正月から心痛む出来事が続きながらも、非力な自分を情けなく感じることもあるが、そんな心を整えることができたようだ。終演後に教会の神父さんが「祈りはいつでも心の中にある」とおっしゃっていた。やにくもに動くのではなく、考えるために立ち止まる。言外にそんなことが伝わってきた。

[ 観劇データ ]
チャリティ ダンスパフォーマンス 〜 平和をおどる 〜
「2:1」
振付・踊り:Love Hellgen、織田りきえ
「暁(あかつき)」
振付・踊り:織田きりえ
日時:2024年1月7日(日) 13:00
会場:日本バプテスト静岡キリスト教会

[ レビュワー ]
柚木康裕(ゆのきやすひろ)
cocommons代表
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※敬称は省略させて頂きました。

日本バプテスト静岡キリスト教会

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