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レポート / 第4回ココモンズ劇評会「観たことを書く。はじめの一歩」

ココモンズ劇評会の4回目「観たことを書く。はじめの一歩」を開催しました。この劇評会は一方的な講義ではなく、ワークショップのようなスタイルで対話を重視しています。参加者は講師の小田さんを合わせて4名。こじんまりとした会となりましたが、一人ひとりの発話量が増えてそれぞれに充実した学びの時間となりました。その様子の一部をレポートします。

 ー 美的な問題よりも論理性に向かう

今回「観たことを書く。はじめの一歩」として開催したのは、劇評以前に日本語で文章を書くということをもう一度振り返りたかったからです。小田さんは大学で英語の特任講師として学生を指導しています。翻訳の仕事も多く、最近ではピョートル・クロポトキンの大著『相互扶助論』を翻訳出版されました。普段から英語に接し精通している小田さんの経験を踏まえ、英語を通して日本語の特性を考えるところから対話が始まりました。

日本語は英語と比較して、所有格や目的語があいまいでも会話が成立しています。細部を指定しなくても私たちはその発話の意味を理解します。話し言葉では文の構造よりも文脈で捉えているため、主語がなかったり助詞の使い方があいまいだったりしても問題ありません。ただ、そのような会話の思考で文章を書いてしまうと整合性が足りなくなることは明らかです。こうした日本語の特性を意識しながら文章を整えていくことが求められます。

日本語の非論理性がトピックとしてあがる中で、フランス象徴派の代表詩人マラルメを例にとりながら詩と評論の対比が話題となりました。言葉によるイメージの広がりは、詩では豊かさとなりますが、評論では誤解をもたらして、真意が正しく伝わらないといった指摘がありました。伝えたいことを伝えるためにどのような言葉を選ぶか。もしかしたら、それは選ぶというよりは文章によって選ばされるというような必然性を自分自身が感じられるといいのかもしれません。そのような言葉がチョイスできるためには何が必要でしょうか。少なくとも感性に任せるだけにせずに、より技術の問題として捉えることが大切なのでしょう(当たり前といえば当たり前ですが)。そのためにも読み手の存在をはっきり自覚して書くことはいうまでもなく必要だと改めて感じました。

 ー 劇評をなぜ書くのかという動機について

GWに開催されたSPAC-静岡県舞台芸術センター「ふじのくに⇄せかい演劇祭」では6作品が上演されました。小田さんはそのすべての劇評を書いています。けっして仕事としてではありません。このモチベーションはどこからくるのでしょうか。

劇評を書く動機は、劇の内容によってさまざまあるようです。語ってみたくなる。書いてみないと目の前で観たはずの劇がよく理解できない。舞台が表現したかったことを示す直す。言葉にする必要がなさそうだけど、、という場合もあるそう。しかし、それでも書いてみる。

劇評を書くきっかけはさまざまありましたが、なぜ書くかをむりやりにひとつにまとめると「いまだ気づいていないことに気づくこと」に収斂されるように感じました。文章を書いているとまれに生じる「私はこう感じていたんだ」という発見。これこそが劇評を書く醍醐味なのかもしれません。

しかし、劇評は他人に読まれるものです。「私はこう感じていたんだ」という私的な領域を公に晒すのだから、やはり独りよがりの文章ではいけません。私の感じたことを伝えるためにはより論理的にならなければいけないでしょう。そして、正しく伝えるために書く技術も磨かなくれはなりません。そして、できれば私しか書けない言葉を見つける。小田さんは劇評のなかである単語を例にあげられました。「非性的なリビドー」。とても印象に残る言葉です。性的でないリビドーとは矛盾しているように感じますが、ゆえに強いインパクトを与えます。小田さんはこの言葉が出てきたのはさまざま勉学の蓄積が必要だったと振り返ります。ここには言葉を他者と共有するための努力が見られますし、ゆえにこの言葉に論理性を与えているように感じます。

文章を書くことを短時間で効果的に学びたいと欲をかきたくなりますが、はやり人に伝える文章を書くということは、そう簡単ではないと感じた劇評会でした。ただゆっくりでも着実に向上するように、多くの文章を読み、書く技術を学び、論理的な思考を身につけて、ひとつひとつの言葉を大切に綴りたいと意欲がわきました。

今回の劇評会の題材となった小田さんの6本の劇評はこのサイトに掲載を予定します。楽しみにお待ちください。

ココモンズ劇評会は不定期に開催しています。次回は初秋くらいに開催する予定ですので、また日時が決まりましたらお知らせさせていただきます。

近日中に掲載予定の劇評6本。(すべて小田透さんの執筆による)
20240506@駿府城公園 岡倉天心作、宮城聰演出『白狐伝』
20240505@グランシップ6階 交流ホール 『マミ・ワタと大きな瓢箪』
20240503@静岡芸術劇場 『かもめ』
20240429@舞台芸術公園と平沢地域 「かちかち山の台所」
20240428@有度 安部公房『友達』
20240427@楕円堂『楢山節考』

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