Interview / ダンサー 三井ひまわり(前半)

Interviews for Next Generation
ー 未来の自分のために挑戦していきたいです。
三井ひまわり
TEXT:柚木康裕(cocommons)
2024年10月28日
*敬称略
2024年9月16日。清水文化会館マリナート大ホールで合同ダンス公演『ONE Daydream – adventure -』が開催された。この公演は静岡市を拠点とするダンススタジオやコレオグラファー6組によるオムニバス公演で、今年3年目の3回目となる。企画製作はダンススタジオONE Daydreamが行い、総合演出はONE Daydream代表おかむられなが指揮をとる。

これまでの2公演と比べると、本公演は演出面で大きな違いが見られた。6組の出演チームの代表がそれぞれのステージを振付演出することは例年と変わりないが、今回は公演コンセプトに沿った役割を各チームが与えられ、ステージをシームレスに繋ぐことを目指した演出がより強く意図されていた。そこには合同ダンス公演が各チームのオムニバス作品の披露で終わらずに、コレクティブ(個性あるチーム)として協働しながら、公演全体をひとつの作品として創作するというおかむらの意欲的なチャレンジを見てとることができるだろう。
おかむらは公演全体をひとつの創作作品として立ち上げるために物語をつくりだした。それが、公演タイトルにもなっている「adventure」という冒険譚だ。物語は一人の少女が深い森を旅しながら、さまざまな出会いによって導かれ、最後に黄金郷へたどり着くというもので、少女の成長物語としても読めるだろう。観客はその少女を追いながら、各チームのステージによって展開されるその物語世界を一緒に旅していくという趣向だ。この重要な役どころの少女を演じたのが、今回インタビューを行った三井ひまわりである。

彼女は静岡市内在住の中学2年生。ダンスは小学2年生から始めたので7年ほど経っているとはいえ本格的にキャリアを積むのはこれからだ。まだ駆け出しといってもよい彼女が、大役を任されたわけだが、共演者の先輩たちに臆することなく演じていたことが印象的だった。技術的には拙いところは指摘できるが、それを補う表情の豊かさを持ち合わせていて、表現者としてのポテンシャルが感じられる。ココモンズは次世代の表現者としての三井さんに以前から興味を持っていたこともあり、彼女の現在地を確かめようと今回のインタビューを依頼した。
ココモンズ:こんにちは。自己紹介をお願いします。
三井ひまわり:こんにちは。三井ひまわりです。中学2年生で市内の中学校に通っています。O型の乙女座で、マイペースな性格だと思います。ちょっとめんどくさがり屋かもしれません。。

ココ:いつ、どんなきっかけでダンスを始めましたか。
ひまわり:7歳のときです。小学2年生からガールズダンスをはじめました。母のお友達が「apoa Dance Company」というダンススタジオで先生をやっていて、通いたいと思ったことがきっかけです。
ココ:ダンスへの意欲があったのですね。
ひまわり:はい。人見知りなので最初はあまり馴染めてはいなかったけど、ダンスが好きだったのでやる気はありました。通うのは楽しかったです。
ココ:ダンスを始めて大変だなと思うことはなかったですか。
ひまわり:それはなかったのですが、一緒にダンスを始めた子がどんどん上手くなっていくのをみて、自分は上手くないなと感じたりしてちょっと悔しいことはありました。今もちょっと感じることはあります。
ココ:ダンスには本人のレベルがわかるような、例えば空手の段のような階級はあるのですか。
ひまわり:レベルを示すようなものはないのですが、技術をつけると受けているクラスが変わっていきます。お姉さんたちのクラスに早くいきたいと思って頑張っていました。4年生のときに上のクラスにあがりました。小学生と中学生がまざっているガールズダンスクラスです。クラスとは別に自主練習もしてて、ママに見てもらうことも多いのですが、めっちゃ厳しいんです。「そこ、変」とか言って。
ココ:けっこうスパルタですね(横でインタビューを聞いている三井さんのお母さんが苦笑い。笑)。ほかのダンスメソッドも習うのですか。
ひまわり:小学校3年生のときにテーマパークダンサーになりたいと思って、練習する間隔はそれぞれですが、4年生からヒップホップやバレエにも挑戦するようになりました。

ココ:ダンス歴がすでに7年ほどになりましたが、中学になって変化はありましたか。
ひまわり:進路とかも本格的に考えるようになって、小学校のときまではただ(ダンサーに)なりたい、ただ上手くなりたいだけだったけど、テーマパークダンサーになるためにできなきゃいけないこととか、まわりにいる人たちよりも上手くならなきゃとか、そういうことを思うようになりました。
ココ:テーマパークダンサーになるという目標を明確に持つようになって、より具体的に考えるようになったということですね。
ひまわり:はい。
ーー 三井ひまわりさんとの出会いは、私(筆者)が企画し2023年3月に開催されたパフォーマンス・フェスティバル「OUR FESTIVAL SHIZUOKA 2023」のプログラム「テーマパークダンスパレード」の時だった。そのときにはまだ小学校6年生だったことになる。開催の半年前ほどにオーディションで選抜されてから、その取り組みを見てきたが、彼女はとても積極的だったことが思い出される。翌年も同じフェスで「テーマパークダンスパレード」に参加されたが、1年を経て、彼女のパフォーマンスははっきりと成長の跡が認められた。リボンを扱う役割も与えられ難易度も上がったが、堂々とした演技と常に絶やさぬ笑顔は、テーマパークダンサーとしての自覚が十分に見てとれるものだった。それらをつぶさに見てきたこともあり、今回のインタビューの彼女の言葉一つひとつが納得できるものとして伝わってきた。

ココ:今回の公演では、重要な役を担いましたが、キャストを告げられたときはどんなことを思いましたか。またアドバイスなどありましたか。
ひまわり:聞いた時は、ただただ本当に嬉しくて、任せていただけたし、れな先生からは私しかいないといってもらえて、本当に嬉しかったです。
アドバイスとしては、少女が物語の中で動いていく時に、演技っぽくならないように自然な動きをしてほしいといわれました。大きく動きすぎたり大袈裟に動くとかは違うと。そのためにも細かな動作が大切で、目線とか大事にしてほしいといわれました。
ココ:ダンスは身体のみで表現するのでときに強調しているように受け取られることもあるかもしれません。難しかったところはどんなところですか。
ひまわり:私はミュージカルも一度しか出たことがなく、経験が少なすぎて分からないことだらけでした。例えば、体が小さくなるシーンから、元の大きさに戻るシーンがあるのですが、大きくなったということがどうしたら伝わるのか分からなかったのです。それでお姉さんたちに尋ねたら、目線を上からもっていくことによって、お客様に気づいてもらう方法を教えてもらったりしていました。とても難しかったです。

ココ:公演には子どもたちも出演していましたが、三井さんのチームは、ほとんどが歳上でしたね。チームの雰囲気はどんな感じですか。厳しいですか。
ひまわり:やさしくて楽しいときもあるけど、シビアなときもあります。立ち位置を決めるオーディションのときは、れな先生もとても真剣でみんなも緊張感がありました。
ココ:出演メンバーの中でもオーディションがあるんですね。
ひまわり:たくさんありました。フリーの振付、ユニゾンの立ち位置、ソロとかいろいろなオーディションが今回ありました。4ヶ月間からリハーサルが始まって、立ち位置オーディションは稽古終盤くらいでした。
ココ:演出家が最初から立ち位置も決めているのではないのですね。お互い仲間でも、オーディションはライバルになるのですね。
ひまわり:はい。みんな本気な雰囲気でピリピリしています。笑

ココ:そのような創作の厳しさがしっかりあることは、作品作りには欠かせないと思います。仲良しグループの馴れ合いではなく、そうしたものを仲間うちでもしっかり保ててることは素晴らしいですね。それが舞台のクオリティに違いとしてはっきり出てることは、作品を観た者として分かります。おかむられなさんとの出会いを教えて頂けますか。
ひまわり:テーマパークダンスに興味を持っていたのですが、小学5年生のときに、お母さんがれな先生のワークショップを進めてくれて、受けたことがきっかけです。それでレッスンに通うようになりました。
ココ:れな先生はどんな人ですか。
ひまわり:レッスンの進め方、はきはきした声、どうすればできるのか質問すればはっきり答えてくれる。憧れです。
ーー おかむられな(ダンススタジオONE Daydream代表)
この合同ダンス公演は、おかむらの発案で3年前から始まった。一昨年におかむらは自身が代表を努める株式会社ONE Daydreamを設立し、ダンススタジオONE Daydreamを静岡市中心市街地にオープンさせた。これまでのダンス業界のしきたりに縛られずに、ダンサー個々の成長を全面的に後押しする活動を行なっている。彼女自身もテーマパークダンサーとして活躍しながら、振付家としても精力的に活動している。とはいえ、彼女自身もまだ20代であり、これからがさらに期待されるパフォーマー/クリエーターである。若手ダンサーからはお姉さん的存在で親しまれて信頼が厚い。彼女の強みは(こういっては失礼だが、良い意味で)年齢に似合わずにクリエーションを妥協せずに粘り強く続けられることだろう。この公演でもそれが成果として現れていた。
ココ:今回の舞台は実際に演じてみてどうでしたか。
ひまわり:お客さんとか出演者のために、作品が台無しにならないように袖でもやることを何度も確認して、ずっと緊張感をもってやってました。物語の終盤にステージ上での早着替えがあるのですが、リハーサルでは一度も成功しないまま本番だったのです。でも、ちゃんと成功したんです。ずっとドキドキでしたが、本番はしっかり出来てみんなでめっちゃ喜びました。w
ココ:自己採点は。ソロもありましたが、それも含めていかがでしょう。
ひまわり:全体的には90点くらいかなと思います。私でよかったと思ってもらえるように、自分でもそう思えるようにがんばりました。ただ、これだけのプレッシャーの中でソロをやったのは初めてだったと思います。ソロの自己採点は50点くらいです。

ーー 今回のキャストについて、おかむられなさんへメールで質問したところ、以下の返信を頂いた。
おかむられな:ひまわりを少女に決めた理由は大きく二つありました。ひとつは、表現者としてのスキルが頭一つ抜けていたこと。二つ目は、彼女のテクニックと練習の質の強化を図りたかったことです。つまり、伸ばせる面、足りない面双方からのアプローチを考えて少女役をお願いしました。
ひまわりは表情管理や気持ちをわかりやすく可視化して表に出すなどのスキルがすでにあり、時間がタイトな中で公演を作っていくのにふさわしいダンサーでした。もちろん私との信頼関係にも起因しています。二つ目に関してはプロになりたいひまわりのことを考えていた時に、最近の彼女を見ていて感じていたことです。ダンスのテクニック部分が荒く、技らしい技になると魅せられなくなる点が気になっていました。練習の量はよくやっていますが、質の部分では改善が必要で、それを本人に感じさせる機会としたかったことがあります。主人公という今までに経験したことのないプレッシャーのもと、自分と向き合って、ダンスと向き合ってほしかったというのが一番の理由です。
ーー ここには、おかむらの指導者としての責任と覚悟を感じることができる。あえて高いハードルを与えることで、プロになりたいという明確な目標を持っている三井さんにとって貴重な機会になるのは間違いない。ただ、けっして簡単な決断ではなく、おかむらにとっても冒険のはずだが、彼女はやりきるはずという信頼があり、やりきらせるという自負もある。こうした良い意味での厳しさをしっかり与えれることは、伸び盛りのダンサーたちにとって大変に有意義なことだろう。若い時の経験はなによりも財産になる。
