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レポート(後編) / 台所とダンサー:暮らしの所作から振付を考えてみるワークショップ

静岡市文化・クリエイティブ産業振興センター(CCC)主催のパフォーマンス・フェスティバル「OUR FESTIVAL SHIZUOKA 2024」の関連イベントとして行われたワークショップのレポート後半です。
 ーー 前半はこちら。→ レポート(前編)

 熱のこもったプレゼンが終わると、いよいよ料理の時間の始まりです。みなさん、すっかりお腹が空いている様子。岡本さんは台所に立ち、さっそく野菜を切り出します。今日のメニューは彼女がいつもつくっているという品々で調理の手際は抜群。参加者も手伝いながら賑やかに準備が進んでいきました。

きょうの料理
・岡本家のチキンカレー
・パプリカの即席ピクルス
・グリーンサラダ・手作りにんじんドレッシング


 軽快に調理をする岡本さんは、気負いもなくとても自然体。彼女のダンスとの親和性が伺えるといえば言い過ぎでしょうか。すると参加者から岡本さんに踊りのリクエストが送られました。玉ねぎの踊りとか、炒められている鶏肉の感情とか、かなり無茶振りですけど、岡本さんは笑顔で包丁やへらを片手にそれに応えます。まったくの余興ではあるのですが、ある意味でこれこそ岡本さんの真骨頂なのかもしれません。なぜなら、みんなの想いに応えたいという表現者としての矜持がここには現れていると感じるからです。そうしているうちにご飯の準備は完了。皆で食卓を囲み、いよいよ昼ごはんが始まります。



 同じ釜の飯を食べる。そこから生まれる一体感が、すでに食卓に現れていたことが嬉しいことでした。ついさっき初めましてを言い合った者同士が笑顔でおしゃべりの花を咲かせてることの豊かさ。これこそが食の力だなと感じる瞬間。

 食事が終わったあとも話は尽きず、参加者もいつのまにか日頃の想いを語りだしています。ダンスから始まった会話は、仕事の話、体調の話、コミュニティの話、芸術の話へと脈絡なく自由に変化しながら続いていきました。気がつけば終了時間を30分もオーバーしています。まだまだ話しを続けられるといった感じでしたが、振り返りの感想を発表してひとまずWSを終えることにしました。

参加者の声。

◯ あっという間に時間が過ぎて、話し足りなかった。ご飯も美味しかった

◯ 玉ねぎが染みるみたいな動きで料理している姿が良かった(笑)。

◯ みなさんと話ができる機会が良かった。美術系のアーティストの方とかでも、またやってほしい。

◯ 今日は調子が悪くてくるのを躊躇っていたけど、来て良かった。元気になった。

◯ コミュニケーションするということ自体が豊かな時間をつくっていた。
参加する機会は東京が多いけど、違う場所だと出会える人もまったく変わってくる。みかん農家には東京では会えない(笑)。場所が変わることにも価値があることを実感した。初めての場所でも関わりを持てると次に繋がれる。

◯ ごちそうさまでした。この試みもすごくいいですね。楽しかったです。
例えばこのWSで岡本さんのダンスが見れなかったとクレームいう人がいるかもしれないが、イベントのタイトルは付けないといけないので、思い込みを頑なに変えずにいるのではなく、こうしたWSなんだと柔軟に意識を変化できるのが大切ではないでしょうか。参加者のリテラシーを上げていくことは必要だと思う。ジャンルも大事だけど、混ぜこぜのものを楽しむというのも同じように大事。そこを調整しながら先に進んでいったら面白い。

◯ 思い切って参加して良かった。自分が思っていることを否定されずに、みんなでこうして聞き合うっていう場はあまりないと思っています。でも、初めての人たちとこれだけワイワイやれる。それは食の力だったり、テーブルの力だったり、もちろんテーマの力だったりするのだけど、すごい面白い。
ダンスの概念がリセットされた。パフォーマー(アーティスト)の概念も。
コーチングの仕事をしている私は人と向き合う仕事。私は何に感動するのだろうと思ったとき、さっき言われていたその人の内側から出てくる言葉や感情とかに、ふっと立ち会える瞬間、すごい幸せだなって思いました。そして、それって誰にでもあることだから、みんなアーティストなんだって腑に落ちた。だから自分の表現を自分の言葉で出せること、自分らしく、その人らしくちゃんと生きていたいって思ったときに、それが可能な状態が必要。それは関係なのか、場なのか、でも何かしら必要なんじゃないか。自分も仕事としてそのようなものに関わって役に立ちたいと思っています。今日は刺激をたくさんもらいました。

◯ 今日はすごく楽しかったです。明日からまた仕事なので、効率化とか、合理的なこととか、予定を決め段取りして素早く動けるようにってなるわけですけど、もちろん頑張るんですけど、その中で、ちょっとお話ししたこととか、みんなから受け取ったみたいなことも織り混ぜながらお仕事できたら楽しいかなって思いました。ありがとうございました。

◯ 今日は美味しかったです。お芝居やっていると、結構知り合いが増えてきて、同じような人や同じような話になってしまうのですが、ここでは初めましての方とお話しできたことが良かったです。みなさん、初対面なのにちゃんと意見をいえるのもすごいなと。ダンスであれ、言葉であれ、みかんであれ、表現という話なんですけど、途中からみんながそれぞれに動いているのを見ていると、その人の生きてきたことや土台があって、それがこう、普通に佇んでいるだけで、すでに、これが何か表現になっているというか。今日はいい空間にいさせてもらってありがとうございました。

◯ ライブであることで生まれたことがあった。その中で自分も会話ができてすごく楽しくいい空間で嬉しかったです。ありがとうございました。

みなさんの振り返りが終わった後に、岡本さんの以下の感想を頂きました。

◯ なんと豊かな、たおやかな空間、時間なのでしょう。
みんなでダンスを創作するときに私は初めに必ずコンプレックスを教え合うことをしています。それによってお互いの垣根が低くなり、自分を解放することによって良い作品づくりに繋がることを身を持って経験してきました。ただ今日参加したことで、もっと外側のコミュニティに波及していきたいと思いました。
フランスから帰国した時に開放感の違いを感じていて、あのときに感じていた開放感をどうしたら日本でも実現できるだろうとか考えていたところで、このWSがヒントを与えてくれそうです。
お互いの意見を自由に言うことによって、もっと深い自分の問題も引き出されて発言してしまうこともすごいし、それをみんなが受け止めてこうなんじゃないって、さまざまな言葉を紡ぐというその優しい感じがやっぱり必要だなって思う。やっぱり対話は大事。踊りをやっているけど、こういうことなんだよなっていうのを再認識したような感じがあって、これを逃しちゃいけない、というか、これは絶対に必要だと思う。これなしに踊っちゃいけないというか、何か、そんなふうにも感じました。今日は本当にありがとうございました。

 WS解散後、まだ帰途についていない参加者と一緒に海岸へ。今日のことを振り返りながら目の前に広がる海を眺めていると岡本さんは堤防でさっそく遊び出しました。何にでも興味を持って身体で感じようとするその姿にやっぱり生粋のダンサーなんだなと深く納得してしまいました。



 最後にかっこよく?ポーズを決めて記念撮影。短い時間でしたが、本当に充実した時間となりました。岡本優さん、参加した皆さんに改めて感謝いたします。

テキスト:柚木康裕
2024年2月15日

[ 講師 ]

岡本優(おかもとゆう)
ダンサー・振付家。ダンス集団”TABATHA”主宰。単独公演、映像出演、ワークショップ、屋外パフォーマンス等多数行い、場を選ばず国内外で活動。ソロの創作や、伊藤郁女「さかさまの世界」、岡田利規演出 オペラ「夕鶴」等、複数作品づくりに携わり活動の幅を広げている。横浜ダンスコレクション2019「若手振付家のための在日フランス大使館賞 ヴァンクリーフ&アペール賞」「シビウ国際演劇祭賞」をダブル受賞。2022年Cité internationale des arts (パリ) で3ヶ月のレジデンス、Centre national de la danseにて創作や研究を行った。


パフォーマンス・フェスティバル
OUR FESTIVAL SHIZUOKA 2024
日時:2024年3月9日(土)、10(日)
会場:静岡市中心市街地の施設、ストリートなど
[ WEB site ] https://www.c-c-c.or.jp/lp/ofs2024

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