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中編『χορός/コロス』を観て心に浮かんだいくつかのこと。

cocommons主宰柚木による『χορός/コロス』観劇記の中編。前編はこちら。
『χορός/コロス』を観て心に浮かんだいくつかのこと。前編

『χορός/コロス』を観て心に浮かんだいくつかのこと。中編

60名超の集団による群衆劇。舞台がダイナミックに進行する中で、出演者の個(性)は匿名性に埋没することに抗っていうように見えてくる。決して集団を維持するためのアノニマスな存在に甘んじているのではない意志を感じる。なぜそう感じるのか。その理由はもう少し先送りにするが、この作品が人類史を扱うということは、個と集団の関係について言及せざるを得ないことが理解できてくる。そして、おおよそ、ここがこの舞台の核心なのだろうと考えるに至る。

個と集団の関係を上演(パフォーマンス)によって、さまざま現前させてゆく。

日本は太平洋戦争後に経済的な急成長を成し遂げたわけだが、その理由のひとつに日本特有な集団性があった。滅私奉公に表される個を隠し集団に使えるメンタリティが日本の経済的躍進に繋がったことに異論はないだろう。この精神性は現在でも私たちの生活に根付いているが、時に同調圧力のような姿になり、個を消し去ることを過剰に要求してくる。集団が簡単に全体主義へ転じてしまうことを歴史は伝えているがそれは過去のものだとも言えない。戦時中だけでなく現代でも簡単に起こることは、新型コロナウィルス感染拡大時の社会を見れば一目瞭然である。集団による様々な悲劇は人類史上どれほど起こったのだろうか。確かにワンフォーオール的な振る舞いは日本の強みであるし、それ自体を非難すべきではない。集団のハーモニーの作り方は国や地域によっても違うはずで、日本には日本の特徴があって然るべしだろう。

『χορός/コロス』を振り返る上で、この日本の集団性を考えることは必須であるはずだ。そのために現代アート作品をひとつ例にあげて考えてみたい。

デジタルアート作品で人気を誇るteamLab(チームラボ)の作品に日本の集団性を扱った作品がある。「秩序がなくともピースは成り立つ(Peace Can Be Realised Even Without Order)」は、エンタメ色が強いteamLabにあって批評性が目立つ注目すべき作品だ。この作品のコンセプトは西洋の楽団には通常いるはずの指揮者が、邦楽ににはいないことである。村の広場(例えばお寺の境内)で人々が踊り盛り上がり、村祭りの賑やかなお囃子を聞いている外国人が「指揮者はどこにいる?」と尋ねたところを想像してみよう。もちろん指揮者はいない。合いの手だけでこのgroove/グルーブは生み出されているし、西洋人にkhaosに見えるどんちゃん騒ぎも、場は不思議と保たれている。それは日本人からしてみれば考えもしないほどに自然なことだ。

teamLab「秩序がなくともピースは成り立つ(Peace Can Be Realised Even Without Order)」(2013) ※筆者撮影

秩序/オーダー/指揮者がなくても、集団/pieceを成り立たせること、つまり阿吽の呼吸のような無言の協調が日本の強みと呼ばれていた。それがピース/peace/平和も生み出していると、「秩序がなくともピースは成り立つ(Peace Can Be Realised Even Without Order)」は伝えているようだ。確かにそうだろう。だが、個人の犠牲の上にそれが成り立っているとしたらどうだろう。その疑問。それが演出家ウォーリー木下のそもそもの出発点だったのではないか。個人の犠牲の上に成り立つピース/peace/平和に意味があるのかと。彼が「集団の得体の知れなさ」と表現していたことを思い出す。

『χορός/コロス』を振り返ってみよう。「数万年に渡る人類史」の始まりが巨人族と鳥族の祭り風景から始まることは、上記の意味でも象徴的だ。この神話的な祭りシーンは巨人族の円形のダンスによって調和が取れた世界を描き出す。鳥族も周りを飛び周り喜びを表す。だがその調和はけたたましい音を響かせ現れる猿族(類人猿)によって破られ、巨人族も鳥族も滅ぼされる。猿族は神話世界の主となり、次第に猿族はテクノロジーを手にし人間に変化していく。(その現れとしての帆と船)。そして、人間たちは社会をつくるが、その集団性の底知れぬ影を寓話的に断片的に見せつける。簡単に全体主義に陥る集団。興味本位な他者への視線。と思えば見て見ぬふりをする集団。そのような集団の怖さを繰り返し見せつける。

群れた猿族が興味(本能)に任せ、風船を奪い取ろうとする。
決意。人類の船出。

後編に続きます。
『χορός/コロス』を観て心に浮かんだいくつかのこと。後編

[ 参考 ]
teamLab★「秩序がなくともピースは成り立つ(Peace Can Be Realised Even Without Order)」
https://www.teamlab.art/jp/w/peace_sg/tokushima2018/
※ 筆者は「singapore biennale 2013 (シンガポール)」でこのホログラムによるインタラクティブデジタルインスタレーション作品を体験した。画像はそのときに写したもの。

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