1. HOME
  2. ブログ
  3. レポート / 創作処愛染屋『心信辛伸芯 -SHIN-』の稽古場にて。

レポート / 創作処愛染屋『心信辛伸芯 -SHIN-』の稽古場にて。

「この世界なら生きていける」と思える舞台を立ち上げたい ― 露木凛

 7月中旬の昼下がり。気温が上昇する中に向かった稽古場はクーラーが無く、なかなか厳しい環境。しかし、みなさんお互いに気遣いながら、とても良い雰囲気で稽古に取り組んでいます。今回は創作処愛染屋の旗揚げ10周年記念公演『心信辛伸芯 -SHIN-』の稽古場に伺い、本作について代表の露木凛さんと愛楽ゆかさんにお話しを伺いました。

 創作処愛染屋の劇団員は代表を務め演出を担当する露木さん、脚本の愛楽さん、俳優小林大峰さんの三名。公演は演目ごとに俳優や裏方スタッフを募集する、いわゆるプロデュース型の上演スタイルをとっています。今回の座組は総勢12名ほど。固定した劇団員にこだわらないのは、演劇創作に参加するハードルを下げるためという意図があります。露木さんは愛染屋を立ち上げた理由に「社会人になっても演劇を続けられる環境を作る」ことをあげられていました。高校や大学で演劇に取り組んでいても、社会人になるときに辞めてしまう人が多いことが気になり、続けたい人が無理なく続けられるような取り組みを目指しているといいます。

 劇団に入らないと演劇が出来ないのではなく、もう少し気軽に関われるようにその都度参加者を募集しているということですが、稽古を拝見するとサークル的なノリではなく部活のような厳しさや真剣さがあることに気づきます。そこには露木さんのこだわりがあり、関わる人にはクオリティのある経験を与えたいという想いが現れています。「しっかりと稽古を行い、可能な限り良い劇場で舞台に立たせてあげたい。それによって、俳優さんたちが次のステップに向かいたくなるような場を目指しています」と露木さんははっきりといいます。実際に何人もの俳優が愛染屋を経て、他団体の舞台に参加するようになったようです。今回は10年以上ぶりに舞台に立つ俳優さんがいます。さまざまな理由で演劇に挑戦したい、もう一度舞台に立ちたいという人たちのきっかけとなる場として愛染屋は成長しているようです。

 愛染屋の公演は基本的にオリジナル脚本を書き下ろして新作を発表しています。原案は露木さんが行います。彼女がコンセプトやテーマを考えて、それを愛楽さんが脚本に仕上げていくスタイルが定番となっています。この共作スタイルは二作目から行なっているということ。驚くことに愛楽さんは高校生の時に、露木さんに大抜擢されて脚本を執筆するようになったということ。すでに10年近い年月を一緒に創作しているので、すでにお互いの好みや癖を知り尽くしているそう。ただそれが馴れ合いにならずいつでもお互いが相手を驚かせたいという気概を持ち、同志でありライバルのような関係でもあるところに好感を持ちます。二人で意見を交わすことによって、脚本はブラッシュアップされていくはずなので、創作にも効果的でしょう。

 『心信辛伸芯 -SHIN-』の脚本もこれまでと同様に二人で創作しています。本作のタイトルは「シン」と読みます。5つの「シン」と読める漢字が羅列されていますが、「シン」と1回読めば大丈夫とのこと。このタイトルにも二人のメッセージが潜んでいるのでしょう。愛染屋の作品はファンタジー要素が多めなのが特徴ということです。本作フライヤーのリード文を読むと今回も異世界の女剣士が登場して現実世界でドタバタと騒動が起こりそうなファンタジー感があります。ただお話しを伺うと、本作はより「現代社会」にコミットする内容ということです。

 例えば日常の中で誰しもが時として世間の反応に違和感を感じることがあるでしょう。それはあからさまな偏見や非難などでなくても、悪意はないけど配慮を欠いた言葉で傷つくという場合もあります。そうした一言が積み重ねられ気付いたら深いダメージを受けていたということもあるでしょう。本作はそんな得体の知れない生きづらさを感じている人々をより丁寧に描き出すことに挑戦しているとのこと。愛楽さんはそのためにリサーチの時間を多く取ったそうです。関係者からお話しを伺い事実関係を確認して、リアリティがより感じられるように工夫したといいます。

 では、シリアスな話になってしまうのかといえば、そこは愛染屋らしい親しみやすい舞台が展開するはずです。ちょっと抜けてる主人公や魅力的な登場人物たちが、不器用にも一生懸命生きている姿がきっと舞台で見られるに違いありません。露木さんが演劇に取り組む理由に「この世界なら生きていける」とご自身が思える舞台を立ち上げたいと言ったことがとても印象的でした。それは誰しもが生き方を肯定される世界ということでしょう。愛染屋が理想とする舞台が現れた時は、舞台という夢の世界はただの夢ではありません。きっと私たちの現実世界と地続きに繋がる道がそこには現れるのではないでしょうか。もちろんそこに至るには多くの経験を積んでいく必要があるはずですが、旗揚げから10年を経て、それを想い続け挑戦していることに敬意を表さずにはいられません。露木さんは気が付いたら10年と謙遜されていましたが、そこには演劇への信頼が読み取れます。この先の10年に続く道が『心信辛伸芯 -SHIN-』から始まります。ぜひ劇場でその新たな旅立ちを目撃してください。

[ 公演情報 ]
創作処 愛染屋 旗揚げ10周年記念公演『心信辛伸芯 -SHIN-』
日時:2023年8月26日(土)15:00/19:00 27日(日)13:00/17:00
場所:人宿町やどりぎ座
  (静岡県静岡市人宿町2丁目5-2 SOZOSYAキネマ館2F)
上演時間:90分程度
詳しい情報はこちらへ。
https://cocommons.com/archives/event/20230826a

チケット:1,000円(どなた様も一律)
チケット申込み(Googleフォーム)

[ レビュワー募集 ]
レビュワーは無料で公演をご覧いただけます。
600〜800字程度のレビューを提出してください。(観劇後2週間以内)
お申込みはフォームからお願いいたします。
https://cocommons.com/mailform

テキスト:柚木康裕(ココモンズ)
2023年7月22日

関連記事