レポート / 伽藍博物堂プロデュース公演『囚われのマリガリータ』稽古場に出かけました。
伽藍博物堂プロデュース公演『囚われのマリガリータ』開演まであと1ヶ月ほど。市内で行われている稽古を取材のため見学させて頂きました。
稽古は週2回と週末を調整しながら行っているということです。出演者は7名。みなさん、俳優として活動していますが、その関わり具合はさまざま。俳優のみで生活を目指す者、仕事を持ちながら活動する者、学業も忙しい大学生など。いわゆるプロの演劇集団でないという言い方もできますが、演劇に取り組む姿勢ではけっして引けを取らず、それぞれに経験も積んできた者たちばかりです。年齢も社会での役割も多彩な組み合わせは、プロ集団とはまた違った雰囲気を生み出すのではないかと期待しています。
この日の稽古は出演者7名が揃う貴重な機会。主宰、演出の佐藤剛史さんの指導のもと各シーンを何度も繰り返しては、立ち位置や台詞を確認していきます。この舞台はほぼWキャスト。4役あるうちの3役を女性6名が3名ずつAチームとBチームに分かれています。ゆえに当然というか必然的に同じ芝居が違った雰囲気で立ち上がってくるのが面白いところです。両チームの稽古を見ていると、それぞれが自分の配役のどこにフォーカスして演じているかの違いがあり、配役の関係性が加わることによって、大きく印象が変わることが分かります。こうした差異はまさに演劇らしさであり観劇の楽しみを高め、やはり両チームともに上演を観なくてはいけないという思いを掻き立てます。
今回の稽古の進め方について、静岡市出身で現在は東京を拠点にプロ俳優として活動する渡邊清楓さんが、興味深いことを語っていました。主宰であり演出を担当する佐藤さんの指導は、けっして一方的に決められた指示があるのではなく、それぞれの考えを尊重してくれるところが有難いといいます。対話を基本として台詞や演じ方など、腑に落ちないことはみんなでたびたびディスカッションをしているそう。ひとつひとつを自らが納得して、それを稽古で試してみて、皆で場面をつくり込む。演劇界は昨今のパワハラ騒動もあり、創作環境の再整備に待ったなしの状態ですが、この座組ではすでに意識せずとも脱権威的な実践をされていることが分かります。ゆえに稽古場の雰囲気はリラックスと良い緊張感で満ちています。もっともこれも主宰演出の佐藤さんの采配の賜物でしょう。
本作の初演は2000年。それは出演者の中で一番若手の大学生の女性が生まれる前のことです。その彼女へ演じる登場人物について尋ねてみると、共感できる部分は少なくないという返事。ただ、演じるのはあくまでも私自身なので、現在を生きる私として演じるしかないとのこと。この言葉を聞いて、ここにも演劇の楽しみがあると思いました。彼女にとってもこの微妙な時代のギャップこそが挑みがいのある部分でもあるでしょう。私たち観客もミレニアムを生きた女性(登場人物)と現代を生きる女性(俳優)がどのように拮抗して立ち現れるのか。しっかり目撃したいと思います。
演劇とは面白いもので、同じ演目を何度上演しても一度として同じになることはありません。再演となれば演じる者も変わったりと尚更です。『囚われのマリガリータ』もそうして上演を重ねて、その度にさまざまな見どころがあったのだと思います。また変化を生み出すのは、創作側だけでなく「社会」という側面もあります。「社会」というのは世界ともいえますし、地域とも、隣にいる人との関係性ともいえます。演出の佐藤さんも自らが執筆した戯曲を読み返してみたら自分の価値観が変わっていることに気づいたとフライヤーに記しています。初演から23年を経た社会に生きる私たちが、この物語をどう受け止めるのか。どこに見どころを見出すのか。もちろん、これは最終形態ではなくあくまで過程です。観劇するということは、変わり続ける舞台のある瞬間に出会うということ。そんな一期一会を体験できることに感謝しつつ、舞台の幕開けを待ちたいと思います。
伽藍博物堂プロデュース公演『囚われのマルガリータ』
・予約フォーム http://garan-garan.com/form/
・公演情報はこちら https://cocommons.com/archives/event/20230721a