Vol.1『χορός/コロス』稽古取材レポート
静岡市中心市街地でGWに開催されるストリートシアター・フェスティバル「ストレンジシード静岡(SSS)」。演劇やダンスからカテゴリーに当てはまらないパフォーマンスまで、さまざまなプログラムが公園や市街地という日常の生活圏で上演されます。
ストレンジシード静岡 2023
https://strangeseed.info/
SSSのコアプログラム『χορός/コロス』は市民参加の演目。公募に60名以上が申し込まれました。参加者は演出チームのプロフェッショナルパフォーマーと一緒に舞台に立ちます。作・演出はSSSフェスティバルディレクターでもあるウォーリー木下さん。東京2020パラリンピックの開会式を手掛けたこともあり注目を集めている演出家です。
60名超が出演するだけでなく、舞台の経験もまったく違う市民パフォーマーをひとつにまとめることは困難が付きまといそうです。どのように稽古して仕上げていくのか気になっていたところ、稽古場でその様子を取材させて頂けることになり早速出かけていきました。
4月22日(土)。この日の稽古は日本平中腹にある舞台芸術公園内のBOXシアター。本番まで残すところ10日あまり。稽古場はピリピリしているのかと思いきや、予想外に和やかな雰囲気です。参加されていたのは20名ほど。ウォーリー木下さんがどのように統率するのかと注目していましたが、稽古を拝見すると率いているという感じではないことにすぐ気付きました。その雰囲気はカリスマ性を纏う演出家といった印象では全くありません。演出チームのアドバイスだけでなく参加者からも意見を満遍なく聞き、アイデアを柔軟に取り入れていきます。それは面倒見の良い兄貴みたいな感じで、演出家と俳優のヒエラルキーが極めて制御されているように見えます。
もっともそれは経験に則した現実的で堅実な方法なのでしょう。短期間、出演者多数という条件でどう作品として仕上げるのか。まず信頼できるプロを集めてコアチームをつくる。つぎに参加者たちのポテンシャルを測る。状況の中で持てうるリソースをもれなく有効に使う。そうだとしたら作品に関わるすべての方との対話をベースに進めることが、もっとも有効で結果的に早道ということになるのでしょう。稽古現場を一見しただけなので断言は出来ませんが、稽古場に響く掛け声や笑い声のトーンがそれを示しているように感じます。
稽古は大きく3つのグループに分かれて並行していきます。これは演出上のグループ分のようです。それぞれに演出チームのプロがサポートします。簡単に紹介しますと、マイムの神様マルセル・マルソー直系にして日本マイム界のリーダーいいむろなおきさん、そしてフランス国立サーカス大学(CNAC)に初めて入学したサーカスアーティストの金井ケイスケさん。マイミストであり、日本初のソーシャルサーカスカンパニー「SLOW LABEL」のアカンパニストとして活躍する黒木夏海さん。ミュージカル「刀剣乱舞〜つはものどもがゆめのあと〜」出演などアクションを得意とし殺陣師としても多忙な俳優冨田昌則さん。そして数多くの舞台音楽を手掛けるピアニスト吉田能さん。そうそうたるメンツです。参加者たちにとってウォーリー木下さんはじめこのようなプロフェッショナルと一緒にクリエーションできることが大きなインセンティブとなっているのでしょう。参加者の中で最も若手の高校生二人に参加動機を尋ねてみるとそうした答えが返ってきます。
さまざまな出自のキャストと一緒にクリエーションに取り組めることが貴重。私はミュージカル中心の舞台だったので、マイムやアクションなど新しいことに取り組めるのは経験になります。ウォーリーさんはパラリンピックで知っていたので、それも楽しみでした。稽古中もスパスパ指摘してくれるし、すぐにレスポンスしてくれるのが本当にすごいと思います。とにかく稽古が楽しいです。(M.H 高校2年生)
ウォーリーさんは初めて知りましたが、とくかくいろいろな経験を積んでみたいと思い応募しました。これまで演劇だけだったので、マイムやダンスなども学んで多くを吸収したいです。(R.S 高校3年生)
公演も迫る中で、ピッチを上げていきたいところだと思いますが、ウォーリーさんは怪我などないように常に参加者へ気遣いながら稽古を進めます。ただ良くみていれば、少しずつ演出の要求が細かくなっていくこともわかります。できないことを指摘するのではなく、出来ていることを褒めながらもう少し先に進めさせる言葉をかける。演劇に限らずリーダーの態度として見習うところが多いと私自身が反省させられます。
ウォーリーさんは『χορός/コロス』を上演する動機として主役がいない舞台をつくってみたいというようなことをおっしゃっています。この脱中心的な舞台は、稽古の時点からそうでなければならないと意識しているかのようです。昨今の演劇界を騒がせるハラスメント問題への回答とも見えるといえば大袈裟でしょうか。次の稽古取材ではそのあたりのことを本人から伺ってみたいと思います。
テキスト:柚木康裕(ココモンズ主宰)
『χορός/コロス』は無料でもご覧頂けますが、有料の椅子席も用意されています。お申込み方法は以下のSAPCチケット情報でご確認ください。
→ 砂かぶり椅子席(自由席・整理番号順)(SPACチケット情報ページ)
『χορός/コロス』は現在クラウドファンディング公開中です。
CAMPFIRE – ストレンジシード静岡2023コアプログラム『χορός/コロス』製作支援
ストレンジシード静岡のnoteにウォーリー木下さんといいむろなおきさんのインタビューが掲載されています。
演劇の”魔法”を届けたい『χορός/コロス』インタビュー
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・SPAC-静岡県舞台芸術センター