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SPAC『天守物語』浜松公演前日ゲネプロレポート

5月26日(金)。SPAC『天守物語』浜松公演前日のゲネプロを取材しました。そのレポートを掲載します。(敬称は省略させて頂きました)
※ ゲネプロ:本番同様の条件で行う最終リハーサルのこと。

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5月ゴールデンウィークに静岡市駿府城公園内特設会場で上演されたSPAC『天守物語』は、浜松城公園に場所を変え、再び上演される。浜松市でSPACの本格的な野外公演は初めてということ。緑豊かな公園内に設置された特設会場は浜松城天守閣が舞台越しに浮かぶ借景を得て、この上ない抜群の鑑賞環境となった。浜松公演では日系ブラジル人が多い土地柄から英語字幕に加えポルトガル語字幕も用意された。県民劇団としての矜持が伺われる。

『天守物語』は1996年に初演され、日本国内をはじめ、海外でも公演を重ねている演出家宮城聰の代表作のひとつ。宮城演出の代名詞ともいえる一つの役を語り(スピーカー)と動き(ムーバー)に分ける「二人一役」の手法と鍛えられた俳優による生演奏は、初演から27年間を経て、伝統芸能とも見間違う洗練と優美を体現している。

特に富姫を演じる二人、ムーバーの美加理とスピーカーの阿部一徳は初演から変わらずにペアで出演していることもあり、執筆に尽くし難い完成度を誇る。ただ今回はそれに劣らずに評価したいのは、鷹匠姫川図書乃助を演じた二人だ。スピーカーの本多麻紀の力強さと繊細さを兼ね備えた声と、ムーバーの大高浩一のしなやかでありながら制御された所作が、女怪をも惹きつける清白な精神を持った青年図書乃助を鮮やかに浮かび上がらせている。本公演の白眉と言えるだろう。

またこの舞台の祝祭性を高める演奏にも注目したい。宮城演出の音楽を担当する棚川寛子がつくり出す打楽器のよるアンサンブルは、SPAC俳優たちによって演奏される。音楽のみ担当する俳優もいるが、ほとんどの俳優は奏者を兼ねるため、上演中は息つく暇もなく動き回ることになる。しかし、俳優が演奏することによって生み出されるグルーブは、いっそうダイナミックに演技との一体化を即くし、観客を揺さぶり強い印象を残す。その意味では宮城演出の二人一役の舞台は、ムーバーとスピーカー、そしてサウンドが三位一体となった時に目指す姿が我々の前に現れると言えるだろう。この『天守物語』こそ、その理想の形を示していると感じられる。

静岡公演では、4日間でおおよそ2,000人の来場者があり好評を得た。浜松公演も早々に完売となり、客席の調整で追加販売が発表されたが、これも時を待たずに売り切れたようだ。この状況からもこの公演への期待の高さが伺われる。このように注目される演目がこの素晴らしいロケーションを持つベニュー(会場)で提供されるのを見るのは浜松の方たちも誇りに思うのではないだろうか。

泉鏡花の世界を洗練された手法で美しく描き出すSPAC版『天守物語』。この浜松の地でその輝きはさらに増したようだ。観劇予定の方は大いにお楽しみにされたい。

[ 関連情報 ]
SPAC-静岡県舞台芸術センター公式HP『天守物語』
・天守物語 ウィキペディア 青空文庫

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