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レポート / 複業パフォーマーのキャリア形成を考える

ココモンズでは、パフォーミングアーツを持続可能な活動として継続するために、「複業」という選択を敢えて取ることについて考えていきます。それは職業やプロフェッショナルとは何かを考えるということでもあるでしょう。

特に地方ではパフォーミングアーツを専業として選択することは、あまり現実的とはいえません。なかなか成立しない専業というスタイルに固執するのではなく、仕事と表現活動を同時に取り組む環境を整えていくことを積極的に考えてみたい。仕事と表現活動のバランスを豊かに生み出すことは、個人にも会社にも社会にも良い影響を与えるのではないでしょうか。そのような仮説を対話イベントを通じて検証してきます。

10月29日(土)に静岡市文化・クリエイティブ産業振興センターで開催される対話イベントもその一環となります。

パフォーミングアーツ・ダイアログス season3
第2回「複業パフォーマーのモデルケース 〜 一輪車パフォーマー山本夏夢」
ゲスト:山本夏夢(一輪車パフォーマー/会社員)
ファシリテーター:柚木康裕(CCCコーディネーター、ココモンズ編集長)
日時:2022年10月29日(土) 18:30 – 20:00
 1部:シルク・ド・ソレイユ カナダ公演報告
 2部:ラウンドテーブル「複業パフォーマーの創作環境向上にむけて」
場所:静岡市文化・クリエイティブ産業振興センター(CCC)2F 交流研修ルーム

詳しくはCCCのHPでご確認ください。
https://www.c-c-c.or.jp/schedule/pad3_02
参加申込みフォーム
https://forms.gle/V4Mk4o7BxSxwAKpHA

これに先立ち、「複業パフォーマーのキャリア形成を考える」というタイトルで第1回目の対話イベントを開催しました。その時のゲストは2名。剣詩舞道家でショップ販売員を勤めている横室真弥さん。そしてもう一人が2回目のゲストでもある一輪車パフォーマーで正規雇用の会社員である山本夏夢さんです。その時のレポートを掲載いたします。

[ レポート ]
パフォーミングアーツ・ダイアログス season3
第1回「複業パフォーマーのキャリア形成を考える」
日時:2022年5月28日(土) 18:00 – 20:00

職業としてパフォーミングアーツを成立するために何が必要かを考えてきた対話イベントとして、今回は「複業」をキーワードに取り上げて開催した。登壇者は伝統芸能の吟剣詩舞道家の横室真弥さんと一輪車パフォーマーの山本夏夢さん。ともに他に仕事を持ちながらプロパフォーマーとして精力的に活動を続けている。

まず最初に二人から活動の様子を発表して頂き、全員でラウンドテーブルという対話スタイルを取り意見交換を進めていった。2時間という限られた時間では十分に議論を深めるまでには至らなかったが、それぞれが気付きや疑問を自覚できたと思われる。これをステップに、さらにこの話題について考えを深めて頂けると有り難い。

二人の発表から浮かんだいくつかの論点を投げかける形で対話を進めていった。

まずは時間管理である。複業のメリットとして安定した収入が見込めると伝えていたが、それは同時にパフォーマーとしての活動時間が減るということである。出来ればパフォーマーとして専業で生業としたいという願いはあるが、現状ではそこまで踏み込めず複業に留まっているというのが本心ではあるようだ。しかし、だからと言って二人が消極的に一方の仕事をしているかというとそうではない。社会人として仕事に就く責任も含め、もうひとつのキャリアという考えのもとに取り組んでいるのが伺える。もちろん、パフォーマーとしての活動にポジティブな影響を与えるためにも複業も前向きに取り組むことが欠かせないだろう。二人からは何事もパフォーマーとして成長する糧という強い意志をそこに感じることができる。ただ1日の時間は限られている中で、例えば仕事が長引いてしまっても練習時間を減らすことはできない。それはクオリティに直結することを彼女たちは身を持って知っているからだ。練習量をキープするためには結果的に睡眠時間を減らすことになる。しかし、それもまたパフォーマーにとっては集中力の低下や怪我の原因となって活動に重大な支障をきたすことにもなる。複業パフォーマーの時間の使い方にもう少し余裕を持たせることは出来ないだろうか。ここには休暇と補償という問題があり、会社との調整が困難であることは想像に難くない。だが複業を考える上で優先的に取り組む問題であることは間違いないだろう。

また時間について複業パフォーマーの固有な問題が確認された。それは一般的な仕事から表現活動へと意識をスムーズに移行することの難しさがあるということだった。舞台に立つというのは高度な集中力を要することは想像できる。複業間の内容の差異が大きければ、それだけ気持ちの切り替えも難しく、仕事が順調ならまだしもトラブルなどがあれば、それが表現活動にも影響を与えてしまうことも十分に考えられる。日常生活と創作という非日常を行き来する者の避けて通れないタスクだと思うが、どう気持ちを切り替えていくか。彼女たちも手探りの状態だ。

複業パフォーマーとして充実した活動するための重要なポイントは勤め先の理解だと登壇者の二人は語る。創作活動するためには仕事が不規則になりがちで、舞台が近づけば休みも多くなる。それを許容できる会社はそれほど多くないはずで、ゆえに創作活動に重きを置く複業パフォーマーの多くはアルバイトなどの就業スタイルでその時間を確保している。今回の登壇者でいえば横室さんはこのタイプになる。一方で一輪車パフォーマーの山本さんは静岡の企業に正規雇用として勤務しているというレアなケースだ。今年の夏はシルク・ド・ソレイユからオファーがありカナダ公演に出演するためにおおよそ2ヶ月間休業する。会社としても前例がないことで、戸惑いがあったようだが、上司の応援もあり会社も認めてくれたということだ。ただこれが度々許されるのかは分からないと山本さんは言う。それでもこのような変化が起きていること自体は大変注目するべきことであるだろう。社会が多様な働き方を求め始めている昨今、パフォーマーに限らずこのように会社と社員の関係が築けることが望ましいはずである。会社と個人の流動的な雇用関係が進んでいく中でも、なかなか個人の都合が優先されることは難しいだろうが、会社もさまざまな試みをおこなっている事例も多い。山本さん自身も新しい働き方のロールモデルになりたいと意気込みを語ってくれた。

こうしたキャリア形成のロールモデルは、学生たちにとって非常に重要に思われる。それは就職と共に競技者や表現者としてのキャリアを終えてしまう者が少なくないからだ。幼い頃から親しみ、学生時代は練習に励みながらも、就職することで継続が難しくなり諦めてしまうという。これでは才能も埋もれてしまうし、何よりも本人が悔いを残すのではないだろうか。では就職しても続けられるためには何が必要で、どのような取り組みが有効だろうか。具体的に考えなければいけないことが、この対話によって改めて明るみに出た。

直接話題に登らなかったが、複業パフォーマーの持続可能な活動に欠かせないものとして、家族の存在も改めて注目したい。それは二人共に自宅で家族と共に生活している事実だ。実家暮らしによる経済的、精神的負担の軽減は実は仕事よりも重要な活動環境のファクターかもしれない。充実した表現活動を行うための基盤。地方における複業パフォーマーのアドバンテージとは、このような生活基盤をベースに取り組めることではないだろうか。もっとも、それが甘えになることもあるのかもしれないが。いずれにしても、最終的には自立しなければならない時期は来るはずなので、その先を見据えてキャリア形成を考えていかなければならないだろう。

会社勤めのパフォーマーとして、芸術文化にあまり関心のない会社の人や取引先、お客様などへ活動の様子を伝えることが度々あると言う。これは複業パフォーマーゆえに可能なそして重要な役割だろう。芸術文化の橋渡しとして、専業で活動しているパフォーマーよりも社会との接点は確実に多い。二人共により多くの人へ伝えて活動への理解を広めたいと意欲的であった。

今回の対話では複業パフォーマーとして創作と仕事の両立は予想以上に負担があることが理解出来た。二人共に専業に移行することは常に考えているようだ。それでも複業に留まっているのは、ふたつの理由があることが見て取れる。ひとつは社会との接点をリアルに感じられることだろう。もうひとつはその裏返しともいえるが、パフォーマーがまだ職業として社会的に確立していないことだと思われる。これは度々指摘されることだが、芸術全般が職業として認識されることが日本ではまだまだ少ない。もちろんだからといって彼女たちはただ踏み留まっているのではない。情熱を持って取り組んでいる技芸を高め、自らの表現行為の社会的価値を訴えていくだろう。そのときにアートマネジメントの役割は明確だ。パフォーマーに代わり/と共に、職場や家庭、地域など、つまり社会へ働きかけ、活動環境を改善していくこと。確実に一歩ずつ進めていかなければならない。(text:柚木康裕ココモンズ)

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