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レポート / 連続ワークショップ ー 静岡のまちなかでダンスを考える。身体を動かしてみる。

テキスト:柚木康裕(ココモンズ)

週末にかけて4日間をダンサー振付家熊谷拓明さんを招いてダンスWSを開催した。
熊谷さんのダンスWSはダンスWSと呼んでいいのか分からないダンスWS。なぜなら極めて踊らないことを目指すから。いや、それは正確な表現ではない。一般的に踊りと呼ばない動きでダンスを作ろうとしているからと言ったほうがいいだろう。それは踊る本人が意識していない日常の所作から生まれてくることによる。

ダンス劇「yasuraka.」2022年

熊谷さんはご自身の創作に「ダンス劇」と名づけて公演を行なっている。それはセリフも伴うので便宜上、そのような名前になったようだが、すっかり定着している。「ダンス」なのか、「(演)劇」なのか。そのような問いかけが常に起こるが、本人としては自分自身の身体の自然な発露として、動きも言葉も発生しているようなので、その区別はそれほど問題ではない。その意味で、熊谷さんのダンスは生活を基点にしているといえるのかもしれない。暮らしの中での所作と言葉。そこから生まれてくる踊り。鍛え抜かれたダンスがレベル100だとしたら、ただ身体がそこにあるというレベル0の状態。そのレベル0を常に意識すること。見失わないこと。ゆえにレベル100は0から100の表現の幅になるということ。

初日は熊谷さんのパフォーマンス「楽語『油屋』」を披露し、アフタートークを行った。2日目からはWSに入り、参加者とともに最終日のプレビューショウを目指して作品作りにも取り組んだ。参加者は熊谷さんからの指導に戸惑いながらも、踊らないダンスに挑戦。通常のダンスWSであれば上手に踊ることを目指し技を習得したりするのであろうが、このWSはそうではない。踊ろうとする身体を常に中断させることを強いる。レベル0を意識しながら、自分らしい表現の幅を見つけていく。それはレベル100を目指すことではない。すでに身体の中はさまざまなことが起こっている。それを自覚し、幅を広げるというアプローチ。

最終日にすべてのWSに参加した二人が無事に15分ほどのショウを披露した。観劇して頂いた方からも評価も上々だった。短期間ではあったが、確かに作品と呼べるパフォーマンスまで仕上がっていて、見応えがあった。ジャンルで括れないそのパフォーマンスは、その出演者だからこそ生まれていた踊りであったことは間違いなように思われる。アフタートークでは、鑑賞者とテーブルを囲み、感想を述べあった。このような時間はとても大切だ。対話によって大きな気付きを得ることができる。

「新しいようで新しくないけど新しい」、「過ごされた期間が想起させられる」、「二人の関係がわからない。それも面白かった」、「振付をなぞるのではなく、何かが生成している状態」など、さまざまな感想が出た。これもまたひとつの創造的行為のように感じられた。ささやかだけど豊かな時間。

これまで熊谷さんはなぜ「踊らない」ことにそれほどこだわるのかと疑問も持っていたが、今回の滞在でそれはかなり解消された。そもそもこの疑問が間違えだったのだ。なぜなら熊谷さんはとてもユニークな方法で「踊る」ことにこだわっていると今なら分かる。「ダンスの役割がひとつしかないのは寂しいのでは」と、おっしゃっていたが、確かにこれはダンスの可能性を広げる試みなのだと思う。どれが正しくてどれが正しくないということではなく、その人なりの表現の幅を広げる。それが日常を少し豊かにしていく。そのような信念を持ってご自身の創作に向かわれていることがよく理解できた。

今回の滞在はさまざまな発見があった。4日間だけだったが、滞在型制作(アーティスト・イン・レジデンス)の可能性を実感できたことは収穫だった。人が出会えば、その場に変化が生まれる。その変化に敏感になり、より良い方向へ進めるようこれからも努めていきたい。

[ 講師プロフィール ]
熊谷拓明(Kumagai Hiroaki)
踊る「熊谷拓明」カンパニー主宰
チャップリンとイッセー尾形をこよなく愛する子供だった。
週末には母親の派手なカーディガンを羽織り、リビングで祖父母にワンマンショーを繰り広げた幼少期を経て、15才で札幌ダンススタジオマインドにて恩師となる宏瀬賢二に出会う。
実は安室奈美恵のコンサートにも出たし、ラスベガスでシルクドソレイユの舞台に850回出演した日々もある。
帰国してから創り始めた「ダンス劇」に誰よりも熱中し、踊る「熊谷拓明」カンパニーの全ての作品の作.演出.振付を行う。
踊る「熊谷拓明」カンパニー公式HP
https://www.odokuma.com/

[ イベントデータ ]
ココモンズ「まちのオープンサロン」
連続ワークショップ – Artist-in-residence type program
ー 静岡のまちなかでダンスを考える。身体を動かしてみる。
 講師:熊谷拓明(振付家・ダンサー)
日程:2022年10月20日(木)〜10月23日(日)

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