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観劇レポ – 静岡演劇プチ図鑑 in Fujieda

オムニバス公演 静岡演劇プチ図鑑 in Fujieda
観劇日:2023年5月21日 13:00回

俳優も観客も、そして地域も、はじめの一歩を踏み出す場としての合同公演。

柚木康裕
2023年5月29日

「静岡演劇プチ図鑑 in Fujieda」は藤枝市を拠点に活動する劇団Z・Aが声を掛けて集まった県下の劇団、演劇ユニット7組によるオムニバス公演。劇団同士の交流を深めること、観客に新しい劇団との出会いを提供することが開催の趣旨ということ。5月後半の2度の週末土日を使い、4チームが1セットとなり1日2回、20分ほどの短編演劇をそれぞれ上演する。1日の上演数にして8回。それを土日2度繰り返すので合計32回上演される。上演回数が多く短編ということが、観劇に不慣れな人も気軽に見てほしいというメッセージを伝えている。

オムニバス短編上映は、観客にとって演劇を親しむ、新しい劇団を知るなどのメリットがある。ただ同時に劇団にとってもさまざまメリットがあるだろう。他の劇団の舞台を見られるだけでなく、演技や演出に関するさまざまな情報交換が出来るし、新しい劇団なら経験を積む場として適している。実際に旗揚げ公演という劇団もあったが、参加した先輩劇団から学ぶことは少なくないはずである。

筆者が観劇した回は、2日目5/21(日)の13時回だった。上演順に紹介すると、「劇団こいろは」、「劇団リモリス」、「どにちオシゴト」、そして「劇団Z・A」というラインナップ。それぞれの感想を簡単に述べてみたい。


「劇団こいろは」は、一人芝居を上演(最後のシーンでもう一人登場するが、基本的に一人芝居といって良いだろう)。出演のYa-maさんは、演出も兼ねる。OLの昼休みの出来事というワンシチュエーションの設定や、安定した演技力はイメージが膨らみやすく、彼女の力量や経験の豊富さを示していた。大いに笑いをとりながらも、部下の相談に乗る先輩OLを演じなければならないOLを演じるという構造が、笑いだけのコメディで終わらない深みを与えていたといえるのでは。演出的なことを言えば、最後のベーグルを受け取るシーンは改善の余地があるようにも感じた。ただ公演の一番手として観客をリラックスさせる、その役割を十分に果たしていたと思う。良作。


2番手の「劇団リモリス」は旗揚げ公演ということで、とてもフレッシュな女性二人が出演。作・演出は、そのうちの一人が担当している。演劇をやりたい!という気持ちが全面に出ていて、つい応援したくなる。初舞台で脚本を書き、演出し、自らが演じることがどれほど困難なのかは、演じない私でも演劇関係者との付き合いは多いので、それなりに推測できる。それに挑戦していることがまず素晴らしい。そのうえでいくつか気になったこともあった。セリフ運びの整合性、シークエンスと映像の関係、キャラクターなどはもっと掘り下げる必要があるだろう。厳しいことを言っているのかもしれないが、それは演劇への熱を感じるからこそ、もっと上達してほしいという願いを込めて伝えたい。「演劇」というメディアは他のメディア(例えば映画、YoutubeやTikTokなどのメディア)と何が違うのか。演劇にしかできないことをさらに考えてもられたらと思う。本作の経験をぜひ次回作に繋げてほしい。期待している。


「どにちオシゴト」は、舞台創作チームサンリミットの石川貴也さんがプロデュースする演劇ユニット(パンフには演劇難民ユニットと記載されている)。演劇に挑戦したいという女性二人を演出している。そこに友情出演の女性一人加えて、短編演劇『傘をとじても』は上演された。まったく見当違いだと思うが、しばらく見ていると思い出すアニメがあった。というのも女性二人は以前から知り合いのような関係性があり、そこに言葉を話す猫(もう一人の女性が扮する)が登場する。たぶんこれは「魔法少女まどか☆マギカ」が意識されているのではないか。つまりこの女性は「まどか」と「ほむら」の関係なのだ。私があなたを(何があっても)守るという物語。そう考えればこの猫は「キュゥべえ」だということか。秘密を知っている存在。だとするとこの舞台の猫役にもう少し決定的な役割を与えてもよかったのではとも感じた。もちろん不足ではない。二人の演者の奮闘も見てとれた。


そして最後に登場したのはこの演劇祭の主催劇団でもある「劇団Z・A」。熱量のあるドタバタコメディを衒いなく演じられるところにこの劇団の心意気を感じる。ただただ笑える舞台だったが、振り返ってみると短編演劇としてツボを押さえ、舞台の質を担保していたからこそ、大いに楽しめたことが理解できる。無理に飛躍させないシンプルな脚本。登場人物の関係性が明瞭。簡素だが効果的な舞台美術。そして役者の技量。ドタバタの笑いによって上演中はそれらに意識が向かないのだが、「演劇」を成立させるこうした要素がしっかり舞台を支えているからこそ、ただ楽しい!を私は享受できる。これが「劇団Z・A」の持ち味なのだろうと勝手に納得した。

4作品はどれもタイプが違い、それを同時に観られるオムニバス公演の楽しさがあった。さまざまな劇団を知り、またその特徴もわかり、演劇界の末席にいる者として多くの気づきが得られてありがたい限り。その意味では他の日に上演された他3団体を観れなかったのが悔やまれるが、それは次回の楽しみとしよう。今後も「静岡演劇プチ図鑑」でチャレンジングな演劇が観劇できることを期待している。

最後に演劇祭が同時に取り組んだユニークな企画のことも忘れずに伝えなければいけないだろう。それは劇団と観客を街に繋げるふたつの取り組みについてだ。ひとつは観客全員に藤枝駅前近辺の5店舗でサービスを受けられるチケットを配ったこと。しかも演劇祭期間内だけではなく7月末まで利用できるのだ。すぐに使用しない場合はチケットが手元に残るため、藤枝とゆるく繋がっているような感覚が芽生えるところが面白い。もうひとつは非常にユニークな取り組みで、推しの劇団に差し入れ券を贈呈できるというもの。差し入れは通常前もって用意し渡すものだが、何を渡していいか分からない、差し入れを買う時間がなかったなど、渡したくても渡せないことも少なくない。そんな観客のために差し入れ券を購入することができて、それを「推し」に渡すことができるのだ。そしてこの差し入れ券は近隣の店舗で利用できるようになっている。まさに三方良しの方法で、見習うべきアイデアである。こんなところにも貴重な学びがあった「静岡演劇プチ図鑑」だった。

[ 筆者プロフィール ]
柚木康裕(ゆのきやすひろ)
cocommons 主宰
くわしくは、「ココモンズのこと」のページをご覧ください。

[ 関連情報 ]
・劇団こいろは(Ya-ma) Twitter
・劇団リモリス Twitter
・どにちオシゴト Twitter
・劇団Z・A Twitter

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